張り紙アパート-前文 | 違和感.com

張り紙アパート

これは私が大学生だった頃の話です。
私が通っていた大学のある街には、「張り紙アパート」と呼ばれる奇妙なアパートがありました。
一見はなんてことない普通のアパートなのですが、1階の部屋の道路に面した大きな窓がとても不気味でした。
そのアパートは2階建てになっており、各階に5部屋ずつあるのですが、なぜか1階だけ全ての窓が内側から隙間なく張り紙がされていたんです。
まるで中を見られるのを遮るかのように・・・
張り紙も新聞紙やチラシのようなものからアイドルやアニメのポスターだったりと、部屋によってまちまちでした。

ある日、そのアパートの1階の1部屋が空室になったことを聞きました。
私の友達にBさんという男友達がいます。
そのBさんは、最近彼女が出来たらしく部屋に彼女を呼びたいとのことで、学生寮を出たがっていました。
そこでその部屋の話をすると、家賃が安いなら借りてもいいという話になり、Bさんは張り紙アパートの一室を借りることになりました。
借りる前に部屋の噂を聞き調べましたが、アパートのことを知っている人はたくさんいましたが、事件があったという事実や曰く付きだという話は一切出てきません。
Bさんは、不動産会社や大家さんに話を聞いて見たようですが、事件・事故・幽霊が出るなどの話は聞いてはいないとのことでした。
張り紙についても首をひねるばかりで、住民からは何も言われたことがないとのことでした。
大家さんが言うには、古いアパートなので防寒対策や結露対策、西日対策じゃないのかとのことです。
実際、内見の際にも押入れの中は湿気のせいかカビのようなシミがあったし、それについては古いアパートなので仕方がない、そのぶん家賃を安くするという話が出た程度でした。

家賃が手頃なこともあり、Bさんはその部屋を契約することになりました。
Bさんが引越しをすることになったので、手伝いとして私とCさんとDさんが駆り出されました。
私は窓をどうするか考えたのですが、無難にカーテンをつけることにしました。
あらかた部屋も片付き、手伝いのお礼にご飯をおごるという流れになっていたのですが、せっかくだしBさんの部屋で鍋をしながら飲むことになりました。
日が変わる頃には、肉体労働の疲れと酒の力で4人ともいい感じに出来上がって、帰るのが面倒になりこのままBさんの部屋に泊まることになりました。
とりあえずテーブルを片付け、私たち4人は畳の上に横になりました。

何時間くらい経ったでしょうか・・・
私はふいに背中を誰かに触られた気がして目を覚ましました。
酔っているので寝ぼけた顔でぼーっとしていると、またさわさわっと何かが背中に擦れたような気がしたんです。
反射的に振り返ると、後ろのカーテンが揺れていました。
私は窓側に寝ていたので、風か何かでカーテンが動いてそれが背中に当たったんです。
なんだカーテンか・・・
そう思い安心して私はまた横になりました。

でもそれがおかしいことに気づいたんです。
季節は秋なので窓は閉めていて、エアコンや扇風機の類はつけていません。
なぜカーテンが揺れたんだ?
色々考えているとまた再びカーテンが背中を触りました。
私は気味が悪くて声を出して飛び起きてしまったんです。
慌てて電気をつけると、時間は午前1時を過ぎた頃でした。
他の3人もなんだなんだと起き出してきました。
私は興奮しながら今起きたことを他の3人に説明しました。
ですが気のせいじゃないかと言われ信じてもらえません。
そんな話をしていると、4人の前で再びカーテンがふわりと浮きました。

あっ!!
4人が同時に声をあげました。
風もないし、誰も触れていないのにカーテンが揺れていたのですから当然の反応です。
しかもふわりとカーテンが浮くだけでなく、窓側から何かに押されるようにカーテンがふくらみ始めたんです。
カーテンが自然にこんな風に動くはずがない。
カーテンの向こうには一体何があるんだ?
私たちがそんな疑問を抱え唖然としていると、Bさんが不意につぶやきました。
「開けてみるか?」
まだ酔いが残っていてその影響もあったのかもしれませんが、私たちもカーテンが自然に動くところを写真に撮れたら面白そうだと思っていました。
ましてや幽霊なんかが撮れたらすごいと、私たちはその話で興奮しました。
段取りはBさんとCさんがカーテンの両脇に待機し、ふくらみ始めたら一気にカーテンを引き、そこを私がカメラで撮るという感じです。
運良くじゃんけんに勝ったDさんは何もせずに待機とのことでした。

数十分経ったころカーテンがふくらみ始めました。
そしてBさんとCさんは一気にカーテンを引いたんです。