当時、私は高校を卒業し、専門学校に通う為に家賃12,000円の安アパートを借りた。
六畳一間で風呂無し、共同トイレの薄汚い○○荘という名の2階建アパート。
玄関を開けると共同の下駄箱があり、1階で大家さんが管理してる様なアパートだ。
個室の下宿みたいな感じ。
よく覚えてはいないが全部で10部屋位あったと思う。
俺の部屋は2階の一番奥で、突き当たりトイレの脇だった。
近くに彼女のアパートが有ったので何でもよかった。
だから風呂無しでも安いこのアパートを借りた。
そんな訳でここには週に3日位しか居なかった。
住み始めて半年が過ぎ、とても寒くなってきた頃である。
隣の部屋から夜中の1時位になると「チィ〜ン」と音が聞こえる。
数珠を摺り合わせる様な音も聞こえるから、隣の住人が仏壇でも拝んでるんだろうと始めは思っていた。
でも何でこんな夜中に?
普通は朝とかに拝むんじゃないのかなぁーと感じたが別に気にはしなかった。
ところが、その日からアパートで寝る度にいつも同じ時間帯に同じ様な音が聞こえる。
彼女や友達も聞いてるので、幻聴とかではなく確かに聞こえていた。
壁にコップをあてて、不定期なリズムの数珠の音も皆で確認し気味悪がった。
大きな音ではなく耳を澄まさなければ聞こえない程の音・・・
彼女に「隣にはどんな人が住んでるの?」と聞かれたが、会った事はなかった。
ほぼ夜の時間帯しかアパートにいないのでどんな人達が住んでるか判らないが 、トイレを利用する音は聞こえて来るので2階にも人が住んで居るのは確かだった。
年末になり、私は正月を実家で迎えるため、大家さんに家賃を払いにいった。
大家さんはメガネを掛けたおばあちゃんである。
「今、餅を焼いてるから食べてけ!」と言われ部屋にお邪魔した。
いい機会だと思ったので、大家さんに隣の住人はどんな人ですかと聞いてみた。
大家さんはキョトンとして、「隣は空きだよ?」と言う。