へこんだ足-前文 | 違和感.com

へこんだ足

これは私が大学3年生の時の話です。
大学の講義が終わった後、友達の家で焼肉会をすることになりました。
6人ほどに声をかけて集まったのは3人。
焼肉会の会場提供者である愛子、お気に入りのフィギュアをいつも持ち歩いているオタクの芽衣、そして私です。
電車の中、愛子の家の最寄りの駅に近づいてくると「あれが私の家だよ」と彼女があるマンションを指差しました。
そのマンションは、他のどの建物よりも目立つ、大きなオレンジ色のマンションでした。
私はその建物に近づけば近づくほど、お洒落で高そうなマンションに見えていました。

駅に着いた私たちは、駅構内にあるスーパーでお肉の買い出しをしていました。
買い出しが終わり駅を出ると、私は目の前にある建物を指差してこう言いました。
「あ!愛子の家ってここだよね!?」
私がそう言っても何の返事もありませんでした。
おかしいなと思い愛子のほうに顔を向けると、彼女は何を言ってるの?と不思議そうな顔をしていました。
それもそのはずです。
私が指差していたのは、小洒落たオレンジ色のマンションではなく、古ぼけた白い団地です。
何でこんな場所を指さしたのか自分でも訳がわからず、とりあえずおかしな空気を誤魔化しました。
すると愛子はボソッとつぶやいたのです。
「そういえばここって何人も飛び降り自殺してる団地なんだよね・・・」
今思い返せば、恐怖はここから始まったのかもしれません。

そこから少し歩いて私たちは、焼肉会場である愛子のマンションに到着しました。
愛子が焼肉の準備をしてくれている間、私と芽衣はテレビを見ながら待つことにしました。
やがて準備が終わり、私たち3人がリビングのテーブルでホットプレートを温めていたその時でした。
急に玄関から扉がバタンと閉まる音が聞こえてきました。
「お母さんが帰ってきたのかな?」と愛子がいうので、私と芽衣はリビングのドアの方を向きました。
愛子の母親に挨拶をしようと思ったからです。
しばらくするとリビングのドアノブがガチャリと下に降り、ドアが開きました。
ですがそれだけでした。
ドアの向こうには誰もいなかったんです。
そのまま「ギャーーーー」と悲鳴をあげながら、私たちは奥にある愛子の部屋に駆け込みました。
しばらく震えながら聞き耳を立てていましたが、人が入ってくる気配などはなかったので、私たちは3人で玄関を確認をしに行くことになりました。
玄関もシンと静まり返っており、ドアには鍵がかかっているし、やはり誰かが帰って来ている様子はありません。
私たちは、気のせいだったと自分たちに言い聞かせ、せっかくの集まりだから気にしないようにしよう!と焼肉を楽しむことにしました。
その後も部屋でラップ音がしたり、誰もいないはずの部屋から物音がしたりとおかしな現象が続きました。

その後夜も遅くなってきたので、片付けを済ませて焼肉会は終了しました。
夜も遅かったので愛子が駅まで見送ってくれることになり、私たちは愛子のマンションを出ました。
エレベーターがなかったのかは覚えていませんが、マンションの階段を降りている時に背後に嫌な気配を感じたんです。

愛子、芽衣、私の順で降りていたので、背後に誰もいるわけはありません。
薄気味悪い気配を感じながら、地面まで残り5段のその瞬間はやってきました。
一瞬何が起きたのかわからなかったのですが、両足を何者かに掴まれた感覚があり足が前に出ず、私は階段を頭から落ちてしまったんです。
頭や体よりも足首の方が痛くて膝立ちをしているところに、
「え!?落ちちゃったの?大丈夫だった?」
と言って心配して近づいてきた二人は、私を見て大きな悲鳴をあげて、私のある部分を指差しました。
その指先の先を辿ると、先ほどから傷んでいる私の足首だということがわかったんです。
そのまま私は自分の足首を見てみると、私は声も出ないほど呆然としてしまいました。